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東京と大阪を新幹線で行き来する予定があるなら、名古屋で一度降りてみるのはどうだろう。
わざわざ名古屋を目的地にする、という話ではない。ゴールデンルートのど真ん中に名古屋があるので、どうせ通る。そこで一日だけ余裕があるなら、電車で30分のところに国宝が2つある町がある、という話だ。
犬山という町で、私はここに何度も来ている。地元だからというより、毎年の祭りがあって、季節ごとに行く理由があるからだ。
先に結論を書いておくと、この町は一泊したほうがいい。 理由は最後に書く。

名古屋城か、犬山城か
まず整理しておくと、大きさで言えば名古屋城が圧勝する。あれは金のシャチホコが載った、誰もが思い浮かべる日本の城だ。
ただし名古屋城の天守は戦後のコンクリート再建で、現在は耐震性の問題で中に入れない。
犬山城は現存天守だ。 江戸時代より前に建てられた木造の天守がそのまま残っているもので、日本に5つしかない。姫路、松本、彦根、松江、そして犬山。名古屋から日帰り圏にあるのはここだけになる。

登ってみた感想を正直に書くと、中は意外とこじんまりしている。 姫路城のような巨大さを想像していくと、肩透かしを食うと思う。ただ、それは古いからだ。天守が小さいのは、城が巨大化していく前の時代の建物だから。
最上階は外周をぐるりと回れる回縁になっていて、木曽川と濃尾平野が見渡せる。手すりは確かに低い。 ネットで「怖い」と書かれているのは誇張ではないと思う。私は平気だったけれど、高いところが苦手なら、無理に外へ出なくても中から十分に眺められる。

入場料が倍になった
ひとつ知っておいたほうがいいことがある。犬山城の入場料は2026年3月1日から、550円から1,000円になった。 ほぼ倍だ。
理由ははっきりしている。天守の防災設備の改修と、史跡の整備。そして来場者が増えすぎたことだ。2024年は65万人、2025年は69万人を超えて過去最高を記録している。木造建築は人が歩くだけで床や階段が摩耗するので、混めば混むほど傷む。10年後には国宝指定100年、その2年後には築城500年という節目も控えている。
「1,000円と聞くと一瞬足が止まる」というのは正直な反応だと思う。ただ、これは維持のための値上げだ。

有楽苑は、正直に書いておきたい
犬山城から歩いて行ける場所に、もうひとつ国宝がある。茶室の如庵だ。
国宝の茶室は日本に3つしかない。 京都の待庵、大徳寺の密庵、そして犬山の如庵。そのうち待庵は事前の申し込みが必要で、密庵は見学できない。誰でも行けば見られるのは如庵だけということになる。

これは相当すごい話だと思う。織田信長の弟である織田有楽斎が建てたもので、1936年に国宝に指定されている。内部には入れないが、外から中を覗くことはできる。二畳半台目という変則的な間取りで、床脇に斜めの壁を入れた「筋違いの囲」、腰に古い暦を貼った暦貼り、竹を隙間なく並べた有楽窓。そういう特徴があるらしい。
らしい、と書いたのは、私がそこまで熱心に見ていないからだ。
行ってみた実感を言うと、客がほとんどいなかった。人気がないのだと思う。庭園としての雰囲気も、京都を何度も歩いている身からすると、正直そこまでではない。
そして入苑料が1,500円する。 犬山城の1,000円より高い。単体で払うにはためらう金額だと思う。
なので私の結論はこうなる。わざわざ1,500円払って行く場所ではない。ただし安く入る方法が2つあるので、それなら行けばいい。
その方法は後で書く。

城下町は、思っていたのと違った
犬山城の下には城下町の通りがあって、ここが食べ歩きのメインになる。
ただ、「城下町」という言葉から想像するものと、実際に並んでいるものは、けっこう違う。
団子も五平餅も目に入らなかった。田楽もなかった。りんご飴はあるのかもしれないが、私が見たのはフルーツ飴のほうだ。スイーツとカフェがとにかく多い。 レストランもある。全体として、現代っ子が好きそうな店と、おしゃれを前面に出した店が並んでいる。
江戸時代の門前町のような食べ物を期待していくと、たぶん違うと感じる。でもそれは悪いことではない。食べ歩きの通りとしては、むしろ今のほうが楽しいと思う。
ひとつ面白かったのは、飛騨牛の串焼きが相変わらず多いこと。 飛騨牛は岐阜のブランドで、ここは愛知だ。それが県境を越えて城下町の定番になっている。飛騨牛は肉質3等級以上という間口の広い基準でブランドを設計していて、年間1万頭くらい認定される。だからこうやって観光地で串焼きになる。A5とB5しか名乗れないブランドでは、この値段で串は焼けない。

平日は、混んでいない
行ったのは平日だったが、混雑はしていなかった。ゆっくり歩いて、のんびり食べ歩きできるくらい。
それでも観光客はちゃんといて、中国語や韓国語が聞こえてきたし、見た目が欧米系の人も何人か見かけた。
愛知県を訪れる外国人観光客は、その半数以上が名古屋城・名古屋駅周辺・栄・大須に集中していて、県内の広い範囲への誘客が弱いことが県の課題になっている。犬山はその外側にある町だけれど、平日でも複数の言語が聞こえるくらいには見つかっている、というのが実際のところだ。
裏を返せば、週末はそれなりに混むということでもある。69万人が来ている城なので。
安く回る方法が3つある
さっき保留にした話がここに来る。
名鉄の「犬山城下町きっぷ」
名鉄が出している企画乗車券で、名鉄名古屋駅からだと1,950円。 中身はこうなっている。
- 名鉄電車の往復割引乗車券
- 犬山城の入場券(1,000円)
- 有楽苑の入苑割引券(1,500円→1,100円)
- 犬山城下町のクーポン券(対象14店舗、3回つづり)
名鉄名古屋駅から犬山までの片道運賃と、犬山城の入場料だけでほぼ元が取れる。そこに有楽苑の400円引きと食べ歩きのクーポンが付いてくる計算になる。
乗車券と犬山城の入場券は連続2日間有効なので、泊まりの旅程でも使える。クーポンは2027年4月1日まで。
名鉄のアプリ(CentX)版だと1,840円でさらに安いが、こちらは名鉄名古屋駅と犬山駅の間に限定される。
犬山城+有楽苑のセット券
現地で買うなら、犬山城と有楽苑のセット券が2,000円ある。個別に買うと2,500円なので500円安い。
車で行くならこちら、電車なら犬山城下町きっぷ、という使い分けになる。
犬山祭の夜

毎年、家族で犬山祭に行っている。ユネスコの無形文化遺産に登録されている祭りだ。
昼の部もあるけれど、私が行くのは夜だけにしている。日が落ちてから山車に提灯が灯るので、そのほうが圧倒的に風情がある。時間帯でいうと18時30分ごろから21時ごろまで。
観覧スポットを探す必要はない。駅から城の下まで出店が続いていて、みんなその通りを歩いている。 山車のほうから向こうに来るので、歩いていれば見られる。どこで待つか、何時にどこへ行くか、という計画は要らない。
出店は正直、全国どこの祭りでも見る顔ぶれだ。ただ鮎の塩焼きはあった。木曽川沿いの町なので、これはこの土地のものだと思う。

五条川の桜


犬山から車で15分ほどのところに五条川が流れていて、春になると桜並木になる。
一か所の名所という規模ではない。 犬山から岩倉まで、川沿いにずっと続いている。
昼も夜も行く。夜はライトアップされて、昼とはまったく別の景色になる。
面白いのは、こちらは出店よりキッチンカーが多いこと。犬山祭の伝統的な屋台と、桜の下に並ぶキッチンカー。同じ町の近くで、祭りの形がまるで違う。


泊まるなら、性格の違う3軒がある
ここが冒頭に書いた「一泊したほうがいい」の中身になる。
犬山は名古屋から30分なので、日帰りでも成立はする。でもこの町は夜に価値が寄っている。 犬山祭は夜が本番で、五条川も夜桜のほうがいい。そして木曽川沿いの宿からは城が見える。
私はどれにも泊まっていない。自分にはちょっと手が出ない価格帯だ。ただ、遠くから来る人にとっては話が別だと思うので、書いておく。
ホテルインディゴ犬山有楽苑は2022年に開業したブティックホテルで、IHGのブランド。ロビーの正面に犬山城が見える。犬山唯一の天然温泉「白帝の湯」があって、そして宿泊者は有楽苑を無料で散策できる。 1,500円の入苑料が宿泊に含まれる形になるので、さっき保留にした話の3つ目の答えがこれだ。名鉄犬山遊園駅から徒歩7分。

灯屋 迎帆楼は真逆の性格をしている。大正8年創業の犬山最古の老舗宿で、文人墨客の定宿として愛されてきた。それを全室半露天風呂付き・10室限定のスイートとして改装している。犬山城の麓、木曽川沿いにあって、全室から城と川が見える。1泊56,100円から。

宿-SHUKU- は2025年4月にできた古民家ホテルで、城下町の中にある。練屋棟と下本町棟の2棟に分かれていて、練屋棟はかつて小島醸造の杜氏や職人が働き暮らしていた建物を改修したもの。弁柄の左官壁と剥き出しの梁がそのまま残っている。蔵をまるごと改装したメゾネットの一棟貸しもある。併設の日本料理店「古今」があって、犬山ゆかりの忍冬酒も出る。部屋にテレビと時計を置いていないのが方針らしい。1泊22,130円あたりから。
一休.comでホテルインディゴ犬山有楽苑の空室・料金を見る 一休.comで灯屋 迎帆楼の空室・料金を見る 一休.comで宿-SHUKU-の空室・料金を見る
外資系のモダン、100年続く老舗、そして城下町の古民家。同じ町で三択になるというのは、なかなかない。
なお、この3軒だけだと「高い宿しかない町」に見えてしまうので書いておくと、犬山遊園駅のそばには1泊4,400円台から泊まれる小さなホテルもあるし、犬山駅の西口から徒歩4分のビジネスホテルもある。予算に応じて選べる町ではある。
ここから先は、地元が食べているラーメンの話
観光の話は以上で、ここから先は完全に食べ物の話になる。
名古屋周辺に滞在するなら、という括りで3店を挙げる。どれも観光客向けの店ではない。地元の人間が普段食べているものだ。
そして先に白状しておくと、私の舌はかなり大衆的だ。こってり濃厚が好きで、ミシュランに載るような繊細な味はよくわからない。ニンニクを入れると何でも美味しく感じる。その前提で読んでほしい。
スガキヤ
東海地方のフードコートには、だいたいスガキヤがある。

私にとってこれは、ラーメンの原体験そのものだ。豚骨スープに魚と昆布の出汁を合わせた和風とんこつで、小さい頃から食べている。全国どこでラーメンを食べても、無意識にこの味と比べてしまう。
今も毎月のように食べている。 小さい頃は家族と、途中からは友達と、今はまた家族と。誰と行っても成立する店だ。
面白い話がひとつある。うちの小学生の子供に、いろんな有名店のラーメンを食べさせている。 それでも本人いわく、結局スガキヤが一番らしい。
私自身の評価には思い出補正がかかっているので、そこは差し引いて読んでほしい。でも子供に思い出補正はない。日本中の有名店を食べたうえで、それでもスガキヤを選ぶというのは、けっこう強い事実だと思う。
フードコートを見ていると、他の店よりスガキヤだけ列が長いことがよくある。たぶん理由は2つで、子供は味が好きで、大人は値段で折り合いがついている。
その値段の話をすると、私が子供の頃は200円台だった記憶がある。もう30年以上前だ。そこから上がり続けて、2022年に330円、2023年に390円、2024年から430円になった。3年連続の値上げで、卵も豚肉も魚介も人件費も上がっているので当然だと思う。
それでも430円だ。主要なラーメンチェーンの中では、いまだに最も安い部類にいる。
サイドとデザートは据え置きが続いていて、ソフトクリームは190円のまま。ラーメンとソフトクリームを頼んでも600円台に収まる。あのソフトクリームは味とボリュームと価格の三拍子が揃っていて、いい歳になった今でも普通に食べる。五目ごはんはセットで頼む。
あと、あのフォークとスプーンが合体した「ラーメンフォーク」。私はあれで麺をすくったことがない。 スープを飲むのに使っている。初代のラーメンフォークは個人で持っていた。
ラーメン福
昭和53年創業で、名古屋市内を中心に11店舗。最近は尾張旭店に行った。守山区の店にもよく行く。

頼み方は決まっていて、普通のラーメンで野菜多め、麺は硬め。
野菜は無料で山盛りにできる。ただしここに落とし穴があって、山盛りにすると麺にたどり着くまでに時間がかかる。 上から崩しながら食べていくので、麺が待たされる。だから最初から硬めにしておく。これは経験から出した答えだ。
そして量。野菜のせいで、ライスも餃子も食べる余裕がない。 小食ではないほうだと思うが、それでも入らない。
卓上には辛味噌ニンニクがあって、これが重要だ。味変で入れるし、野菜と一緒に食べてもいい。あの薬味があるかないかで、この店の印象はだいぶ変わると思う。
岐阜タンメン
愛知と岐阜に店が多いので、いろいろな店舗に行っている。

あっさりした塩ラーメンに見えるのだが、実はニンニクがかなり効いている。豚肉と野菜の旨味に、ニンニクの刺激が乗っている。見た目の透明感から想像するより、情報量の多い味だ。
辛さは選べる。私は通常より上にしているけれど、3辛でも説明が大げさに感じる。 辛いのが苦手でなければ、表示より一段上げていいと思う。
卓上には酢もやしがあって、これがおかわり自由。入れるとさっぱりして、量も増える。
女性のファンが多い印象があるのだが、これはたぶん鍋に近いからじゃないかと思っている。野菜がたっぷり入った塩ベースのスープ。言われてみれば、構造としてほとんど鍋だ。替え玉もできるので、男性が物足りなくなることもない。
3店に共通していること
書いていて気づいたのだが、この3店はどれも「卓上で自分で組み立てる」タイプの店だ。
ラーメン福の辛味噌ニンニク、岐阜タンメンの酢もやしと辛さの段階。スガキヤは卓上でいじるタイプではないけれど、あのラーメンフォークという道具自体が、食べ方を客に委ねている。
私は博多でも同じことをしている。替え玉が来てから、ラーメンダレを足して、高菜を入れて、ニンニクを加える。一杯目は店の味をそのまま食べて、二杯目から自分の味にする。
観光地のグルメは「何を食べるか」で紹介されることが多い。でも地元の店は、「どう食べるか」のほうに文化がある気がする。
冒頭に「一泊したほうがいい」と書いた理由を、最後に書いておく。
犬山は名古屋から30分なので、半日で回ろうと思えば回れる。城に登って、城下町を歩いて、電車で戻る。それでも成立はする。
でもこの町のいいところは、だいたい夜に寄っている。 犬山祭は日が落ちてから山車に提灯が灯るし、五条川の桜も夜のほうが景色が変わる。そして木曽川沿いの宿に泊まれば、部屋から国宝の城が見える。日帰りだと、そのどれも手に入らない。
国宝の城と、国宝の茶室。平日なら混まない城下町。春には川沿いにずっと桜が続いて、4月には提灯を灯した山車が通る。宿は外資系から古民家まで三択ある。
そして地元の人間は、フードコートで430円のラーメンに並んでいる。
どうせ通り道なので、一泊だけ寄ってみてもいいと思う。






























































