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白川郷といえば冬、というイメージがあると思う。実際そのとおりで、雪が積もった合掌造りは反則的にきれいだ。私も豪雪の日に閉館ぎりぎりまで粘ったことがある。暗くなってから建物に明かりが灯ると、昼とはまったく別の場所になる。
ただ、あのあたりは冬だけの場所ではない。春も夏も秋も、それぞれちゃんと別の顔がある。しかも全部、名古屋から車で届く範囲にある。
というわけで、この記事は季節で切り分けない。四季の飛騨をまとめて並べる。
高山は、町並みと食べ物の町
正直に書くと、高山で見るものは古い町並みの周辺にほぼ集中している。そこを歩いたら、あとは食べる時間だ。
飛騨牛の話をさせてほしい
まず飛騨牛。これは「岐阜の牛」という程度のものではなくて、きっちり定義のあるブランドだ。

飛騨牛を名乗れるのは、岐阜県内で14ヶ月以上肥育された黒毛和種で、飛騨牛銘柄推進協議会に登録された農家が育てたもの。そのうえで日本食肉格付協会の枝肉格付で肉質等級3等級以上、歩留等級AまたはBという条件を満たしたものだけだ。基準に届かなかった牛は「飛騨和牛」という別の名前で流通する。同じ岐阜の黒毛和種でも、名乗れるかどうかが分かれる。
出発点は1981年に兵庫から導入された「安福号」という種雄牛で、今も飛騨牛の父と呼ばれている。1988年に協議会が設立されて県統一銘柄になり、2023年1月にはGI(地理的表示)にも登録された。
ブランドとしての格が決まったのは2002年だ。岐阜で開かれた第8回全国和牛能力共進会、いわゆる和牛のオリンピックで、飛騨牛は種牛の部の名誉賞(内閣総理大臣賞)と肉牛の部の最優秀枝肉賞という、両方の最高位を同時に獲った。5年後の第9回でも最優秀枝肉賞を取って連覇している。
ただ、正直に書いておくと近年の全共では宮崎牛と鹿児島黒牛が強い。宮崎牛は4大会連続で内閣総理大臣賞を取っているし、2022年の鹿児島大会では鹿児島黒牛が和牛日本一になった。飛騨牛が今も品評会で日本一、というわけではない。
それでも飛騨牛が強い理由
基準の厳しさで並べると、飛騨牛は最上位ではない。
佐賀牛は肉質4等級以上かつBMS7以上、仙台牛にいたってはA5とB5しか名乗れない。松阪牛は未経産のメスに限定していて、神戸ビーフは但馬牛のうち基準を満たしたものだけ。石垣牛は八重山郡内で20ヶ月以上という縛りがある。どれも門が狭い。
飛騨牛は3等級以上で、しかも去勢牛も未経産牛も対象にしている。数字だけ見れば緩い。
でも、これは弱点ではないと思っている。
年間およそ1万頭が飛騨牛として認定されていて、そのうちA5が3割強を占める。上位の質を保ちながら、量が出る設計になっているわけだ。だから高山の町なかで、串焼きでも握りでも丼でもコロッケでも飛騨牛が食べられる。A5とB5しか名乗れないブランドでは、この値段でこの量は回らない。
実際、高山市内の焼肉屋に入ろうとしたら、信じられないくらい外国人が並んでいた。二階に上がる階段にまで列ができていて、あれは驚いた。
和牛が「高くて遠い存在」ではなく、旅行者が普通に手を出せるものとして並んでいる。飛騨牛の本当の強みは、たぶんそこだ。
朴葉味噌とみたらし団子
朴葉味噌は、甘辛い味噌を朴の葉ごと焼いてご飯に乗せる。これは危険なくらい進む。
そしてみたらし団子。飛騨のみたらしは他の土地のものと別物で、醤油味で、甘くない。関東や関西の甘い餡がかかったやつを想像していると、最初の一口で確実にびっくりする。
食べてみる価値は十分にある。ただ正直に言うと、私は断然甘いほうが好きだ。飛騨で食べるならこれ、という話であって、好みの問題としては甘いみたらしに軍配が上がる。
飛騨古川と、『君の名は。』
高山から鉄道で15分ほど北に行くと飛騨古川に着く。ここは「高山の奥座敷」と呼ばれていて、瀬戸川沿いに白壁の土蔵が続く町並みがある。鯉が泳いでいるのは春から秋まで。冬は越冬のために別の池へ移されるので、いない。

そして、ここは『君の名は。』の聖地だ。
先に言っておくと、私はあの映画が本当に好きだ。タイタニックを観たとき以来くらいに感動した。RADWIMPSの曲があの物語に完璧に合っていて、音が鳴った瞬間に場面が立ち上がってくる感じがたまらない。
ただ、聖地について一つ整理しておきたいことがある。三葉が住む糸守町は架空の町で、新海監督自身が「特定の場所はありません」と言っている。糸守湖のモデルとしてよく名前が挙がるのは長野の諏訪湖のほうで、松原湖など複数の風景を合わせた複合モデルだと考えられている。
じゃあ飛騨古川は何なのかというと、瀧が糸守を探しに来る側の風景だ。こちらは実在の場所が明確に描かれている。JR飛騨古川駅の待合室とホーム、瀧が調べ物をした飛騨市図書館、気多若宮神社。少し北の宮川町落合には、あの個性的な屋根のバス停もある。
実際に駅に立つと「あ、ここか」となる。私が飛騨古川で撮った写真も、結局ここばかりだ。

泊まるなら八ツ三館がいい。安政年間の創業で、明治38年に建てられた招月楼、昭和初期の数寄屋造りの光月楼、平成の観月楼という三棟が連なっている。建物そのものが国の登録有形文化財という料亭旅館で、駅から歩いて6分。文化財に泊まれる宿というのは、そう多くない。
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白川郷は、雪が降った後がいい

1995年に世界遺産に登録された集落で、合掌造りの中にも入れる。和田家が300円、神田家が400円、明善寺が300円。神田家は屋根裏の構造まで見られるので、外から眺めるだけでは絶対に分からない部分が見える。集落の中にカフェもあるので、寒い日は逃げ込める。
冬に行くなら、降っている最中よりも、降った後のほうがいい。屋根にきれいに雪が積もって、あの絵になる姿になる。
ただ、ライトアップは事情が変わった。
2026年から完全事前予約・入場チケット制になっていて、開催は年に4回だけ。チケットを持っていないと、昼から村にいても夕方には出ないといけない。展望台へ上がる徒歩ルートも16時10分で閉まる。展望台チケットは単体では売っておらず、村内に宿泊するか、展望台チケット付きのバスツアーに参加するしかない。
ふらっと行って見られるものではなくなった、ということだ。気温は-10℃前後まで下がるので、装備も真剣に考えたほうがいい。
駐車場の混み方も相当なもので、私が行ったときは観光バスが雪にはまって動けなくなっていた。白川村は今、駐車場の予約サイトと渋滞をリアルタイムで見られるサイトを出している。あの状況を思うと、村側も相当困っていたんだろうなと思う。

春は、桜の頃にまだ滑れる
雪が解けはじめると、高山の町並みは一気に歩きやすくなる。白川郷の合掌造りも、雪が消えて周りが緑になると印象がまるで変わる。同じ場所とは思えない。
そして春のいちばん面白いところは、平地で桜が咲いている時期に、まだゲレンデが開いていることだ。
高鷲スノーパークは例年4月下旬まで営業していて、3月以降も公式が「まだハイシーズン」と言い張っている。春には山頂にスプリングパークが作られる。標高1,550mの山頂にあるカフェからは、運が良ければ雲海が見える。
朝に桜を見て、午後に滑る。標高差のある県だからできることで、これは素直に岐阜の得だと思う。
夏は上高地と、羊に追いかけられる高原

夏の飛騨は涼しい。そして上高地がある。
まず知っておくべきこととして、上高地は一年中マイカーで入れない。高山側から行くならあかんだな駐車場、松本側なら沢渡駐車場で、シャトルバスかタクシーに乗り換える。知らずに車で突っ込むと詰む。
私は高山に泊まって、そこから日帰りで行った。この組み立てはけっこう現実的だと思う。上高地の中の宿は数が限られていて、しかも安くない。
河童橋は木製の吊り橋で、あそこから見上げる穂高連峰が上高地の顔になっている。梓川の水は驚くほど透明だ。ただし、ここは国立公園であると同時に国の特別名勝・特別天然記念物でもあって、「踏み込まない」というルールがある。遊歩道や木道を外れて河原に降りるのは、それに引っかかる。眺めるだけにしておくのが正解だ。
そして上高地帝国ホテル。赤い三角屋根に丸太小屋風の外観で、私は最初ペンションか何かだと思っていた。実際は1933年開業の日本初の本格的な山岳リゾートホテルで、泊まると相当な金額になる。
ただ、泊まらなくても入れる。ロビーラウンジは宿泊者以外も使えて、上高地オリジナルのケーキと、上高地の湧水で淹れたコーヒーが飲める。中央には象徴のマントルピースがあって、寒い時期の夕方5時にはベルマンによる火入れ式まで行われる。日帰りで上高地に来た人が、いちばん贅沢に休憩できる場所だと思う。
夏の高原といえば、郡上のひるがの高原にある牧歌の里も外せない。夏は動物がたくさんいて、広場では羊に追いかけられる。本当に追いかけられる。子供より大人のほうが焦る。

秋は新穂高ロープウェイ
10月、奥飛騨温泉郷にある新穂高ロープウェイに乗った。
ここは日本で唯一の二階建てゴンドラで、標高2,156mの展望台まで上がる。紅葉の時期は、上のほうが先に色づいて、下がまだ青い。日を変えて乗ると別の景色になるらしい。
しかも降りたらそこは奥飛騨温泉郷なので、そのまま温泉に入れる。秋の飛騨は、この順番が完璧すぎる。
冬は、滑る人と滑らない人で分かれる
岐阜と長野のスキー場は、たぶんほとんど行っている。私はスノーボードだ。
いちばんよく行くのは鷲ヶ岳と高鷲スノーパーク。高鷲スノーパークは1999年開業で、西日本最大級。イタリア製の15人乗りゴンドラとハーフパイプ2本があって、ハイシーズンには山頂で隣のダイナランドと行き来できる。
ひとつ注意しておくと、高鷲スノーパークにナイター営業はない。夜に滑りたいならダイナランドで、あちらは12月下旬から3月下旬まで毎日23時までやっている。
高鷲・ダイナランド・ひるがの高原・鷲ヶ岳・ホワイトピアたかすの5か所は共通のシーズンパスがある。この一帯、それくらい密集している。
もうひとつ気づいたことがある。高鷲スノーパークは、日本人が少ない。雪が降らない地域から来ているアジアの人たちのほうが多いんじゃないかと感じるくらいで、白馬やニセコとはまた違った国際色になっている。
そして滑らない人の話。
牧歌の里は冬もやっていて、こちらはスキー場ではない。ソリとチューブがメインなので、板を履けない人でも雪で遊べる。冬でも動物とふれあえるし、敷地内に牧歌の湯もある。
春節の時期に行ったら、台湾からの家族連れで溢れていた。雪が降らない土地の人にとって、雪は滑るものではなく触るものなんだと思う。滑れないと雪山に来られない、というのは完全に思い込みだった。
ゲレンデの近くにはサウナ付きのしゃれたコテージがいくつもあって、大人数で借りて騒いでいる人たちがいた。宿に気を遣わなくていいので、あれは正解だと思う。
たぶん、温泉が本題

先に白状しておくと、私はスーパー銭湯マニアだ。かなりの数を回っている。そのうえで飛騨エリアの温泉を語らせてほしい。
下呂温泉は、正直に言うと街としては地味だ。派手な観光要素があるわけでもない。ただ、湯がいい。アルカリ性単純温泉でpHは9.18、源泉は84℃。無色透明で匂いもきつくなく、入ると肌がつるつるになるので「美人の湯」と呼ばれている。草津・有馬と並ぶ日本三名泉の一つだ。
真冬に花火を見たあと、震えながら宿に戻って湯に入った。そのあと外を歩いても、体の芯からポカポカで湯冷めしなかった。あれには本気で感心した。さすが三名泉だと思った。
その花火というのが「冬の下呂温泉 花火物語」で、1月から3月の毎週土曜、20時半から10分間だけ上がる。下呂大橋の下流、飛騨川の河畔から。毎回テーマが変わるらしく、成人を祝う花火、バレンタイン、合格祈願、桃の節句、旅立ちの花火といった具合に、季節の行事に合わせてくる。
夏の花火大会の混雑が苦手な人には、こっちのほうが向いている。10分で終わるのも潔い。
街には湯めぐり手形があって、加盟している旅館の風呂を回れる。泊まらなくても名旅館の湯に入れるので、日帰りでも十分に楽しめる。
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噴泉池については、書き方に気をつけたい。以前は飛騨川の河原にある露天風呂で、橋の上から丸見えの状態で入れた。今は違う。2021年12月から水着着用が義務化され、入浴自体ができなくなって、現在は足湯として使われている。昔の話として知っておくぶんにはいいが、真似はできない。
奥飛騨温泉郷は平湯・福地・新平湯・栃尾・新穂高の5つの温泉地の総称で、新穂高ロープウェイもこの中にある。上高地へ向かうときの乗り換え地点でもあるので、通り道として自然に組み込める。
白骨温泉は住所としては長野県松本市だが、高山ICから車で70分。さわんどバスターミナルで乗り換えれば上高地まで1時間ほどなので、動線としては完全に同じ圏内だ。標高1400mの中部山岳国立公園の中にあって、湯は硫化水素泉。湧き出た時は無色透明で、時間が経つと白く濁る。あの乳白色は、湯が空気に触れた結果だ。
白骨で有名なのが「泡の湯」の混浴大露天風呂だ。1912年創業で、毎分1,730リットルという長野県内随一の湯量を誇る。混浴と聞くと身構えるかもしれないが、女性用の脱衣所と出入口が別に用意されていて、湯あみ着も置いてある。湯が濁っていて透明度が低いうえ、湯船がとにかく広いので他の客と近づくこともあまりない。日帰り入浴もできる。
湯温は38℃前後とぬるめで、炭酸ガスを含んでいる。細かい泡が体に付く。ぬる湯なので冬はそれなりに覚悟がいるが、長く浸かっていられるという意味では冬向きとも言える。
スキー場まわりの温泉も安い。鷲ヶ岳の鷲の湯が500円、ダイナランドに隣接するホテルの日帰り入浴が600円。滑った後にこの値段で入れるのは、正直ありがたい。

車で回るときに知っておきたいこと
結論から言うと、このエリアは車がないと厳しい。
高山と白川郷と下呂は公共交通でも繋がっているが、牧歌の里やスキー場まで含めると、バスの時刻に旅程を支配される。私はほとんど車で回っている。
ただし、いくつか例外と落とし穴がある。
上高地はマイカーで入れない。高山側はあかんだな駐車場、松本側は沢渡駐車場で乗り換える。これだけは車でもどうにもならない。
白川郷の駐車場は冬に地獄を見る。観光バスが動けなくなるレベルで混む。村が駐車場の予約サイトと渋滞のリアルタイム確認サイトを出しているので、出発前に見ておいたほうがいい。
ライトアップは予約なしでは見られない。これは何度でも書いておきたい。
いろいろ書いたが、私がいちばん好きなのは、雪が降っている中で入る露天風呂だ。
熱さが気持ちいいというより、風情のほうだと思う。湯気の向こうに雪が落ちてきて、音がほとんどしない。頭に雪が積もってきて、顔だけ冷たくて、首から下は熱い。
そして夜だとまたいい。暗い中に雪だけがぼんやり白く見えて、時間の感覚がなくなる。あれのために岐阜の山に通っている、と言ってもいいくらいだ。
春に桜を見ながら滑れるのも、夏に上高地で涼めるのも、秋に紅葉のロープウェイに乗れるのもいい。でも結局、どの季節に行っても最後は温泉に浸かって終わる。
どの季節に行っても正解がある、というのはそういう意味だ。
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