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福岡・博多ラーメン食べ歩き:名店を巡って辿り着いた「一蘭・一風堂」最強説

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博多駅の筑紫口から歩いて数分。角を曲がる前に、もう匂いでわかった。

博多一双。泡立つスープが「豚骨カプチーノ」と呼ばれている行列店だ。ところが店の前まで来たところで、連れの一人が足を止めた。「ごめん、これは無理かも」。ダクトから流れてくる豚骨の匂いが、その人には完全にアウトだったらしい。結局その人だけ、外で待つことになった。

福岡には観光地がいくらでもある。太宰府天満宮も、糸島の海も、能古島も、行けばちゃんと楽しい。ただ私がこの街でやっていたのは、朝から晩までとんこつを食べることだった。

世界的に見れば、福岡はもう「ラーメンの聖地」ということになっている。一蘭と一風堂が世界中に店を構えていて、海外から来た人が空港からまっすぐ博多のラーメン屋に向かう、なんて話も珍しくない。その聖地まで来て神社を回るのも悪くはないのだけど、私はどう考えても麺のほうに用があった。

なのでこの記事、観光の話はほとんど出てこない。かわりに豚骨の匂いの話がずっと続く。

ついでに白状しておくと、私の舌はだいぶ大衆的だ。こってり濃厚が正義だと思っているし、ミシュランに載るような繊細な味はよくわからない。食べログの点数もあまり見ない。

匂いがすごい、王道の豚骨

博多一双

2012年にできて、あっという間に博多屈指の行列店になった店。国産豚の骨を三つの寸胴で骨がボロボロになるまで炊いていて、丼一面に浮かぶ泡がそのまま濃厚さの証明みたいになっている。

で、これがめちゃくちゃうまかった。濃い。本場の豚骨ってこういうことか、と素直に納得した。麺は平打ちの細麺で、濃いスープをよく持ち上げてくれる。

ただ、臭い。見た目は泡がふわふわしていて妙に上品なのに、匂いのほうは容赦がない。連れが引き返したのも、まあわかる話ではある。私は平気なタイプなので最後まで機嫌よく食べたけれど、これは人を選ぶと思う。

博多だるま

こっちは昭和38年創業の老舗。渡辺通にある。鉄の羽釜を使った「呼び戻し」という昔ながらの製法で、スープを継ぎ足しながら炊き続けている。

そして、こちらもしっかり臭い。

とはいえこの臭さ、悪口として書いているわけではない。むしろ「本場に来たな」という実感がいちばん濃いのはこの手の店で、東京や名古屋で豚骨を食べていて、ここまで匂いが立つ店にはなかなか出会わない。

博多らしくない、博多のラーメン

博多元気一杯!!

下呉服町にある店。これは完全にマニア向けだと思う。暖簾も看板も出ていないので、外から見ると何かのテナントにしか見えない。営業している日は店先に青いバケツがぶら下がっていて、それが唯一の目印になっている。

昔は「スープから飲め」「写真は撮るな」みたいな厳しいルールがあったと聞いていたけれど、今は撤廃されていて、中の雰囲気はずいぶんカジュアルだった。

肝心の味は、正直なところ博多のラーメンらしくなかった。超濃厚な豚骨白湯なのに臭みがなくて、クリーミーで、とろりとした粘度がある。私の感覚だと、コーンスープに麺が入っているみたいな味と食感だった。

絶賛する人が多いのもわかるし、唯一無二なのは間違いない。ただ、この旅で食べたかった博多の豚骨とは、だいぶ別の場所にある一杯だった。

ラーメン海鳴 中洲店

魚介とんこつで有名な店。夕方6時から翌朝6時までやっていて、中洲の締めを一手に引き受けているような一軒だ。とんこつスープにジェノベーゼを合わせた「ラーメンジェノバ」なんていう変化球まである。

博多の純粋な豚骨からすれば、魚介を混ぜるのは邪道ということになるんだと思う。でもうまい。うまいのだけど、口に入れた瞬間に頭に浮かんだのはスガキヤだった。

私は東海地方の生まれで、ラーメンの原体験がスガキヤなのだ。豚骨に魚と昆布の出汁を合わせた和風とんこつで、あれを子供の頃からずっと食べている。

で、これは私だけの錯覚ではなかった。その日は6人で食べていて、たまたま全員が東海地方の出身だったのだけど、誰からともなく「スガキヤっぽくない?」という声が上がった。全員、同じことを考えていたわけだ。

本場の福岡まで来て、名古屋のチェーンを思い出す。われながらどうかと思うけれど、味覚の原体験というのはそういうものらしい。

ちなみに海鳴は2026年に東京のお台場へ9号店を出したので、この味は福岡まで来なくても食べられるようになった。

街に溶けているラーメン

元祖ラーメン長浜家

海鳴から歩いてすぐ、上川端町にある。川端通り商店街から中洲に向かう角の店だ。

ここで先に知っておいたほうがいいのは、この界隈が名前でかなりややこしいということ。大元に「元祖長浜屋」があって、そこを辞めた人が始めた「元祖ラーメン長浜家」があって、さらにそこから独立した人が同じ名前で店を出している。看板の字体も配色も似ていて、片方がもう片方を訴えたこともある。裁判では店名の使用が認められて、今も同じ名前の店が並び立っている。

観光で来た人間には、正直どれがどれだかわからない。私も、あとから調べるまで自分がどの店に入ったのか自信がなかった。

味のほうは、長浜系は日本中にあるので目新しさはあまりない。無難な博多系の豚骨で、ちゃんとうまい。ただインパクトは薄い。地元の人が朝でも深夜でもふらっと入れる、生活に溶け込んだラーメンという感じだ。

博多らーめん ShinShin 天神本店

屋台から始まった店で、2003年に開業してから県内に何店舗も広がった人気店。長浜とも博多とも違う独自の豚骨を掲げていて、とにかく評価が高い。だから行った。

うまかった。クセがなくて誰でも飲めるスープで、人気になる理由もよくわかる。

ただ正直に書くと、一蘭や一風堂を超えるかと言われると、私はそこまでではなかった。

麺の硬さは、上を狙わなくていい

博多ラーメンの麺の硬さは、柔らかめ、普通、硬め、バリカタ、ハリガネ、粉落とし、湯気通し、ナマ、という順に硬くなっていく。ナマにいたっては、ほとんどお湯を通さない。

長浜系だけは体系が違っていて、ナマ、カタ、フツウ、ヤワの4段階。しかも油の量やネギと組み合わせて「ベタナマ」みたいに一言で頼むのが常連の作法になっている。同じ福岡なのに流派で言葉が変わるのは、なかなか面白い。

私は硬い麺が好きなので、昔はハリガネやナマばかり頼んでいた。ところが、そのたびに後でお腹を壊していた。しばらく原因がわからなかったのだけど、要するに茹で時間が足りない麺は、小麦粉に近い状態のまま胃に入ってくるということらしい。小麦粉のデンプンは加熱して糊化させないと消化酵素が働きにくく、消化不良を起こす。

私の場合はバリカタくらいまでにしておくと、これが起きない。個人差はかなりあると思うけれど、今はハリガネから上は頼まないことにしている。

多くの店では、そもそもバリカタがおすすめとして案内されている。初めてならそこに従っておくのが結局いちばんいい。硬いほど通、というわけでもない。

替え玉は、麺を食べ終わる前に頼む

一杯目は、あまりいじらない。卓上の薬味は紅ショウガくらい。ただしけっこう多めに入れる。まずはスープと麺そのものを味わいたいので、そこは邪魔したくない。

すりごまだけは使わない。あれは私の舌にはかなり大きく味を変えてしまうので、一杯目でも替え玉のあとでも入れない。好きな人は多いと思うけれど、私には合わなかった。

そして替え玉。いちばん大事なのはタイミングで、一杯目の麺を食べ終わる前に頼んでおく。食べ終わってから注文すると茹で上がりを待つ時間が空いて、スープはぬるくなるし勢いも途切れる。博多の細麺は茹で時間が短いぶん、こっちの段取りも早くしないと噛み合わない。

もうひとつ、スープの配分も考えたほうがいい。最初から飲みすぎると、替え玉の二回目までもたなくなる。一杯目のうまさに任せてぐいぐい飲むと、あとで確実に後悔する。

替え玉が来てからが味変の時間だ。卓上のラーメンダレを足して濃くして、辛子高菜があれば入れて、ニンニクがあると一気にうまくなる。もっともニンニクを入れると何でもうまく感じてしまうので、これはもう私の舌の問題という気もする。

ちなみに替え玉というシステム自体は、長浜の元祖長浜屋で生まれたものだ。魚市場で働く人に早く出すために麺を細くしたら、そのぶん伸びるのも早くなった。だったら一杯の麺量を少なくしておかわりできるようにすればいい、という順番でできあがっている。

屋台には行かなかった

中洲の屋台は福岡の名物ということになっているけれど、私は結局、眺めただけで入らなかった。

あそこは歓楽街のど真ん中で、値付けもそれなりに観光客向けだ。それに、アジアを歩いていると屋台は移動と食事の基本装備みたいなもので、屋台そのものに珍しさを感じない。バンコクでもハノイでも台北でも、毎日そういう場所で食べていた。

雰囲気は確かにいい。ただ、限られた滞在で豚骨を食べられる回数が決まっているなら、私は店に入るほうを選ぶ。

結局、一蘭と一風堂だった

福岡で一蘭と一風堂の本店には行かなかった。どこで食べても同じ味なんだから、わざわざ本場で行く理由がない、と思ったからだ。

そのうえで、さんざん食べ歩いた末に出た結論は、われながら身も蓋もなかった。博多の豚骨は、一蘭と一風堂の二強だと思う。

理由ははっきりしている。この二つだけが、豚骨特有の臭みを消しているからだ。

これは私の思い込みではなくて、一蘭は公式に「五つの元祖」というものを掲げていて、その二番目が「臭みのないとんこつスープ」になっている。会社自身が、臭みを消したことを発明として打ち出しているわけだ。

臭みがないから、老若男女が食べられる。連れが店の前で引き返すこともない。だから全国に広がって、世界にも出ていけた。一双のダクトの前で足を止めたあの人も、一蘭でなら普通に完食したはずだ。

ついでに言うと、私が卓上でちまちまやっている味の調整を、一蘭は最初から紙の上で片づけている。オーダー用紙で選べるのは、麺のかたさ、出汁、こってり度、チャーシュー、ねぎ、秘伝のたれ、そしてにんにく。あの用紙も「五つの元祖」のひとつだ。私が替え玉のあとでニンニクを足したくなるタイミングを、注文の時点で先回りされている。

もっとも、チェーン店はどこで食べても味が同じ、というのは私の勝手な前提かもしれない。富士そばみたいに、商品開発部を置かず新商品を各店の店長の裁量に任せていて、「店舗ごとに味が違う」という声への対応まで店舗任せにしている例外もある。あそこは意図的にバラつかせている。それでも豚骨の二強に関しては、どこで食べても同じという印象は最後まで揺らがなかった。

弱点は価格だ。一風堂の白丸元味が850円台、シンプルなほうで790円台。それに対して長浜系はワンコインから700円くらいで食べられる。本場のローカル店を基準にすると、確実に高い。一蘭は2026年7月から一部店舗で価格が改定されていて、今は店舗ごとに値段が違う状態なので、行く前に確認したほうがいい。

ただ、この価格差にはちゃんと理由があると思っている。臭みを消して、誰が食べても外さない一杯に仕上げるというのは、たぶんいちばん手間のかかる仕事だ。

もつ鍋と、海の見える朝

ラーメン以外に食べたものといえば、中洲のもつ鍋くらい。店の名前は覚えていない。飲んだ流れで入って、うまかった、という記憶だけが残っている。

泊まったのはヒルトン福岡シーホーク。地行浜にある高層ホテルで、部屋は全室が海側を向いている。深い理由があって選んだわけではなく、なんとなく決めただけだった。外資系だけあってバーの雰囲気はよかったし、朝食のビュッフェもそれなりに豪華な気分になれる。

ひとつだけ実用的なことを書いておくと、このホテルは最寄りの唐人町駅や西新駅から歩くと20分近くかかる。無料のシャトルバスは出ているけれど、土日祝日の10時から19時までしか走っていない。ラーメンを食べ歩いて夜中に帰ってくるつもりなら、タクシーか、博多バスターミナルから出ているバスのほうが現実的だ。

臭い店ばかり回った翌朝に、海を見下ろしながらビュッフェを食べる。この落差が、なんだかんだで一番記憶に残っている。

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